CARBON FIBER

かつては航空宇宙産業やモータースポーツ競技の最高峰シリーズでの用途に限られていたカーボンファイバーは、数十年前から高性能な自転車やホイールなどのサイクル部品の材料として選ばれるようになりました。カーボンファイバーは、快適性、剛性、強度、効率性において比類のないライディングエクスペリエンスを素材の組み合わせによって生み出す可能性を、自転車エンジニアに与えてくれます。驚くほど高い強度対重量比と可鍛性により、カーボンファイバーは世界最高の自転車を作るために他の追随を許さない素材となっています。カーボンファイバーは、細くて丈夫な繊維が結合したものです。この繊維は、全体的な強度と弾性率に基づいて、さまざまなグレードに分かれています。

モジュラス、簡単に言えば、「弾性率」とは、ある素材の硬さを表す言葉です。しかし、「硬いから」といって、高弾性カーボンファイバーだけで構成されたバイクが良いかというと、そうではありません。むしろ、剛性、強度、重量の理想的なバランスを得るために、さまざまな種類のカーボンファイバーを組み合わせることが、バイクフレーム作りの鍵なのです。また、カーボンファイバーだけで作られた自転車はなく、レジンという樹脂接着剤と一緒に使われ、フレームを作り上げていきます。乗り心地がいいだけでなく、ライバルに差をつけるカーボンバイクを作るには、複雑なパズルを解くことが不可欠です。そして、最高級の食材を使った料理を作るためにシェフの腕が必要なように、自転車のフレーム素材もまた、優れた自転車を作るために専門的な技術が必要なのです。

ユニディレクショナルカーボン

ユニディレクショナルカーボンファイバーは、バイクに用いるカーボンファイバーとして最も一般的に使用されている素材です。その名の通り、ユニディレクショナルカーボンのシートは、繊維が一方向に、つまり平行に配向しています。ユニディレクショナルカーボンファイバーの特徴をイメージしやすくするために、ワイングラスを思い浮かべてみてください。硬い床に落とせば、薄くて硬い反面、もろいので、粉々になります。では、プラスチックのコップを思い浮かべてみてください。プラスチック製のコップは、柔軟な性質を持っているので、落としても何ともありません。カーボンも同じような法則があります。弾性率を上げると、繊維はより硬い反面、もろくなります。逆に、弾性率を下げると、繊維は硬くない代わりに、よりしなやかで耐久性のあるものになります。高弾性カーボンファイバーだけで構成された自転車フレームは存在せず、少なくとも安全で快適な乗り心地のものにはなりません。大きな凹みにぶつかったら、すぐに壊れてしまうでしょう。高弾性カーボンファイバーは、剛性、重量、強度、耐久性のバランスを考慮しなければならないため、扱いが難しいのです。また、ユニディレクショナルカーボンファイバーは、すべてが同じように作られているわけではありません。世界中のさまざまなコンポジットメーカーによって、無数の種類とバージョンが作られており、それぞれ重量、耐久性、耐振動性などの特性が異なるため、完成した構造物の性能に大きな影響を与えることがあります。カーボンの種類を紙に例えてみましょう。コンピュータのプリンターには真っ白な紙、工作には厚手でカラフルな画用紙、印刷や簿記には厚手でしなやか、かつ丈夫な紙が適しています。同様にカーボン素材の種類にも、それぞれの特性や理想的な使い方があるのです。

カーボンクロスについて

ユニディレクショナルカーボンファイバーに加え、カーボンクロス・ファイバーも自転車用として非常によく使用されています。カーボンクロスは、その名の通り、一方向性のカーボンファイバーを織機で織るようにつくられ、比較的細い繊維で構成されています。炭素繊維は汎用性の高い素材でありながら、糸の方向性に弱点があるため、炭素繊維を織ってクロスさせることで、カーボン素材のエンジニアは設計する構造をより自由に操ることができるようになるのです。しかし、ユニディレクショナルカーボンファイバーと同様、すべてのカーボンクロスファイバーが同じように作られるわけではありません。どれもユニークな特性を持っています。私たちは長年にわたり、バイクのパフォーマンスを向上させるために、最高のカーボンファイバーの一つであるTeXtremeを使用してきました。ここからは、TeXtremeの何が特別なのか、特徴について説明します。

TeXtremeは何が特別か

TeXtremeは自転車業界で初めてFelt Bicyclesが製品に採用したことから、Feltが生み出した、あるいはFelt独自のカーボンであると考えている方もいるかもしれません。しかし、そうではありません。TeXtremeはスウェーデンの素材メーカーOxeon社が開発した織物状のカーボンファイバーで、航空宇宙やモータースポーツなど幅広い業界の数十のブランドに提供されているものです。カーボン素材の中でも高価なため、自転車用としてはまだ希少価値の高い素材です。しかし、すべてのサイクリストに最高のライディングエクスペリエンスを提供するという私たちのミッションのもと、世界で最も優れた自転車を作るために、金銭的な妥協を捨て、FELTではこの素材を採用しています。では、なぜTeXtremeが自転車に最適なのか。ズバリ、強度と重量です。

見た目以上の

TeXtremeは、Oxeonが「Spread Tow(スプレッド・トゥ)」技術と呼ぶ独自の構造が特徴です。「トゥ」とは、カーボンファイバーシートを織るために使用される特定の種類の糸を指す用語です。TeXtremeのスプレッド・トゥ設計は、約半分の重量で2層のユニダイレクションカーボン並みの強度を実現します。また同じく、TeXtremeは同様の繊維の組み合わせよりも少ない樹脂量で済むため、完成した構造体の全体重量をさらに削減できます。加えてTeXtreme特有の幅広「チェッカーボード」パターンは、見た目にも美しいのは間違いないでしょう。TeXtremeの詳細についてより詳しくは、Oxeon社のウェブサイトをご覧ください。しかし、TeXtremeはFeltバイクを作るための材料の一つに過ぎないことを忘れてはいけません。Feltフレームには、世界最高の自転車エンジニアが開発した複雑なレイアップスケジュールに基づいて熟練の職人が巧みに積み上げた、他にも複数種類ものカーボンファイバーが含まれているのです。
…ここで、「レイアップ・スケジュールって何?」という疑問を持たれた方がいるかもしれません。気になった方は、是非この先も読み進めてみてください。

レイアップ・スケジュールとは?

「レイアップ」または「レイアップスケジュール」とは、バイクフレームの製造工程において、さまざまな種類や形状のカーボンシートをどのようにつなぎ合わせるか(または樹脂を加える前に金型内で敷き詰めるか)についての全体的なレシピを指す言葉です。この指示書は、リスト、チャート、ダイアグラム、またはそれらの組み合わせで構成されることが多く、各パーツの寸法、弾性率、繊維配向、樹脂含有量などが詳細に記載されています。これらの情報は、フレームが完成するまでの道しるべとなります。すべてのカーボンバイクフレームには、このような情報が数多く含まれています。ユーザーの皆様にとっては、カーボンバイクの構造の違いを見抜くことは非常に難しいですが、その形づくられる方法は多種多様です。実際、どのメーカーもプライの向きや素材を工夫したり、樹脂の種類を変えたりして、バイクを形づくっています。しかし、設計段階でカーボンと構造的な関係を理解することに時間をかけなければ、全く特筆すべき点の無いバイクを作るだけになってしまいます。

フレーム設計とサイズ毎の調整

CAD(コンピュータ設計支援)、FEA(有限要素解析)、そしてフェルト契約プロライダーによるプロトタイプテストを通じて、エンジニアはバイクにどの種類のカーボン繊維素材を使うべきかを見極めることができます。その目的は、フレームが持つ特性を最大限に発揮するために、適したカーボン素材を正確に狙った効果を得られる場所へ配置するためです。フレームの部位によって、例えば、剛性と強度に理想的なバランスを保たせるために、中弾性素材を使用することもあります。剛性を高めるために高弾性素材を使用する場合もあります。そして、余分な重量を増やさずに強度と耐久性を高める方法として、多くのFELTモデルではTeXtremeが使用されています。 また、同じモデルでもフレームサイズをそのまま縮尺すると違う乗り味となり、形作るカーボン素材のレイアップも変わってしまいます。そのため、私たちは数十年にわたり、同じモデルですべてのサイクリストが同じライディング体験を共有できるよう、サイズ毎に独自に設計したフレームを製造してきました。
これらの要素によるフレームへのカーボン素材の配合は、条件によって大きく変わることがあります。通常、例えば、より硬いファイバー・プライは、ボトム・ブラケットやダウン・チューブなど、最大限の剛性を必要とする部分に使用されます。衝撃を受けやすい部分には、より強度の高いファイバーが最適です。しかし、FELTではフレームサイズの変化にも同様の注意が払われており、チューブの直径や交差点が変われば、プライの方向や材料の仕様も変わるなどの臨機応変さが肝要となります。これらの決定には、あらゆるバリエーションを考慮し、最終的に決定するまでに数カ月から数年を要しています。理想的な材料の組み合わせとプライの方向性が決まると、すべての生産プロセスを網羅したレイアップスケジュールが作成されます。そして、工場でフレームは試作され実際にテストライディングがなされた後、最終的にマスプロダクションが行われるのです。

FELTカーボングレードについて

既にFELTのカーボンバイク各モデルのページをご覧になった方は「UHC Ultimate + TeXtreme」、「UHC Advanced + TeXtreme」、「UHC Performance」といったフレーズが目についたのではないでしょうか。これらは、さまざまなバイクモデルに採用されている、独自のカーボンレイアップの種類を示すFELTでの呼称です。では、具体的にどのような意味なのでしょうか?UHCとは「Ultra Hybrid Carbon」の略で、私たちが長年にわたって使ってきた名称です。それぞれのバイクの目指す性能を実現するために、フレームに様々な種類のカーボンファイバーを複雑にレイアップし、丹念に作られたモデルであることを示しています。

では、なぜ、FELTではこのことについて言及するのか。それは、すべてのブランドが、このような複雑な製品を作る努力をしているわけではないからです。実は航空宇宙産業などであっても、ユニディレクショナルカーボンファイバーを使ったシンプルな構造しか設計していないケースが数多くあります。「UHC 」には、最先端の素材から最高のクオリティを追い求めるというFELTのこだわりが込められています。下図をご覧いただくと、UHCの用語やカーボンファイバーの特徴について、より詳しくご理解いただけると思います。
カーボン素材を研究し続けてきたFELTのオリジナルブレンドにより、強度/ 弾性の異なる複数のUDカーボンを使用。フレームの場所に合わせて剛性を高めたり、柔軟性をコントロールすることで、最小限のカーボンで最高のパフォーマンスを得ることに成功。使用するカーボン素材は主に、他社のトップエンドにも使用される30t、40tカーボンです。
主に60tのハイモジュラスカーボンを加えることで、より高い剛性と軽量性を実現。特にチューブのクロスセクションに使うカーボンシートの枚数を削減、カーボンシートの弱点である屈曲が最小限になることで強度と耐久性も向上しています。UHC Performanceより平均20%軽量になり、入力への反応性が大幅に向上。これにテクストリームカーボンを加えたフレームは、ヒューマンパワードヘルスチームや弱虫ペダルサイクリングチームがトップレベルのプロレースで使用しています。
最高グレードのウルトラハイモジュラスカーボンと緻密なレイアップスケジュールによる、現在の技術で実現可能な最高のカーボンフレーム。使用するカーボンシートの形状にも詳細な指示があり、通常は裁断機で直線的にカットするところを、CNCカッターで部位ごとに必要な形状に自由曲線的にカットし、1gずつ不要なカーボンを削減しています。さらに、レジンにナノサイズの補強材を加えることでカーボンを分子レベルで融合。密着度を飛躍的に高めて重量増の原因であるレジンの使用量を最小化しています。