BOMBTRACK HOOK ショートストーリー

その日、僕は退屈な日々を飛び出した。

ジャリジャリ…。砂利を踏みしめるタイヤの音が、早朝の河川敷に響きわたる。 通勤で使っている土手の下、普段は見向きもしなかった道だ。そこを走っているだけなのに、僕はどこか特別な解放感に包まれていた。 日常という殻を突き破る—そんなライドを、HOOKは可能にしてくれる。

BombtrackのHOOK EXTは、バイクパッキングのために作られたクロモリ・グラベルロードだ。厳選したキャンプ装備を積み込んで、冒険に出かけるのが最高に似合うバイク。 ドイツの質実剛健な作りと、本場のバイクパッカー達に鍛え上げられた設計思想。いい意味で”真の自転車バカ”が作った冒険バイクの形が、まさにここにある。 今日は、そのHOOK EXTにキャンプ装備を詰め込み、家を飛び出してきた。

日常に退屈していた。 仕事で1日中PCに向かい続けるのにも、ロードバイクでトレーニングコースを走って、STRAVAでログを確認するのにも…。 それらが悪い訳では決してないが、マンネリ化した毎日に、物足りなさと閉塞感を感じていた。

それが、なぜだろう? HOOK EXTに跨っていると、そんな退屈さは置き去りにされる。何でも出来る自由と高揚感、そして未知に対する少しの恐怖。そう、ゾクゾクするのだ。 キャンプ装備をパッキングしても、HOOK EXTの走りに淀みはない。いやむしろ、これが本来の走りなのだろう。「コイツとなら、どこへでも行ける」。HOOK EXTのそんな安心感は、未開の地へとクランクを回す自信に繋がった。 川を渡り、丘を越え、森の奥地へ進んでいく。街の利便性から離れ、文明の息が届かない場所へ…。

アスファルトが無くなると、足先から頭まで、すっぽりと森に包み込まれたかのよう。 森の中は、険しく苦しい。グラベルの振動と繰り返される急坂は、一切の容赦がない。水と補給はみるみる無くなり、身体は消耗していく。 HOOK EXTの良さは、そんな苦しい状況でも、ライダーの思いに確実に応えてくれるところ。キャンプ装備を積んで未舗装のアップダウンを駆けるなど、人間もバイクも等しく苦しいものだ。 負荷が強くかかっていても、狙ったラインをトレースし、なにくそとトルクをかければ、その分確実に進んでくれる。そんなHOOK EXTの芯の強さを支えに、ひたと未舗装の峠を征く。

…と、舗装路に出て視界が開けた。思わず、その眺望に息を飲む。 グラベルの暴力的な振動から解放され、山の突き抜けた静けさと、風にあおられる草木の喧噪を同時に感じる。ああ、自分とHOOK EXTとで、正念場を持ちこたえたのだ。 この解放感をなんと呼ぼう? 自然は雄大だ。人間がその中に入ったとき、いかにちっぽけな存在か心底思い知らされる。 そこにひっそりと息づく人の営みを感じたとき、どこか誇らしく、同時にほっとするものだ。 ふと手元に目をやれば、いつも変わらぬ姿のHOOK EXTがそこにある。美しい道具であり、ここまで苦楽を共にした頼れる相棒だ。さあもっと先へ進もうと、ささやかれている様だった。

今夜は、海沿いのキャンプ場に泊まろう。 真っ青な水平線へダウンヒルをし、小さな街へ出た。昨夜まで仕事でPCにかじりついていた自分は、もはやどこにも居ない。 身体の求めるまま、気の向くまま、HOOK EXTの走るまま…。Googleマップにない道を抜け、峠を越え、見知らぬ港町にたどり着く。これこそ、僕の求めていた刺激だった。

夕焼けを眺めつつ、テントの中で愛車に乾杯。 日常からの脱出―冒険の1日が終わりを迎える。虫の声と、パチパチと弾ける薪の音を肴に、夜を更かす。 焚火に照らされたHOOK EXTのクロモリフレームが、ゆらりと赤く輝いた。