FELT 歴代エアロモデルの変遷から見る、現行AR第3世代の魅力

自転車におけるエアロの大家、パイオニアという周知のとおり、特にこの分野において優れた製品を生み出し続けているFELT。

そんなFELTが考える、ロードバイクとしてもっともエアロダイナミクスに優れた自転車がARです。

今回、まさにこのロードバイクの頂点に位置するものの一つともいえるであろうモデルを試乗する機会があり、皆様のご参考にインプレしたいと思います。

ただ、やはりこの車体の魅力を正確に推し量るには、このモデルが辿ってきた変遷を知るのがもっとも理解が深い。そして筆者にとってはARはFELTブランド自体を知るきっかけとなった、思い出深いモデル。長くなってしまうこと間違いなしですが、お付き合い頂ければと思います…!

 

FELTのそもそものブランドの起こり

FELTがなぜエアロの分野に秀でたブランドと言われるに至っているのか。それにはそもそものブランドのルーツが根幹にあります。

ジムフェルト ロードバイク ブランド
ジム・フェルト、ブランドを立ち上げたその人。間違いなく今日までの自転車を作り上げてきた人の一人です。

元々は世界の有名バイクメーカーでモトクロスバイクのメカニックエンジニアをしていたジムフェルトがトレーニング用に自分のトライアスロンバイクを作り上げたのが始まりです。その自転車がEASTONの目に留まり、彼は様々なバイクブランドのフレームで使うためのEASTONチューブを作ることになります。様々な金属素材の配合やチューブ加工技術から、彼は業界内で「フレームの魔術師」と呼ばれました。

ポーラと試作バイク”B2”。トップチューブにはEASTONロゴもあります。

EASTONからトライアスロンで勝つバイクを作るプロジェクトを任されたジムはその当時特に有力であった女子選手、ポーラ・ニュービーフレイジャーとタッグを組みます。黒塗りのイーストン試作バイクはそのステルス戦闘機のような見た目からB2と名付けられ、その年のコナ・アイアンマン世界選手権を優勝。彼のバイクに乗りたいという人が多数現れ、FELTブランドの立ち上げに至りました。

 

エアロロードバイク“AR”の始まり

FELTはマスプロメーカーとしてカーボン素材を用いた“エアロロード”を作った先駆けのメーカーです。

その当時、2008年FELTを駆っていたGarmin SlipStream チームがツールドフランスに第一世代ARを持ち込んだ際には大きな話題となりました。このころから自転車ロードレースを見ていたサイクリストの方々には他にこのようなバイクはなく、かなり衝撃的な存在だったのではないでしょうか。

このバイクの開発はGarminチームのライダーからの要望をきっかけとして始められたようです。当時、ライダーの内の一人からジムに寄せられた要望は以下のようなものでした。

「ジム、ロードバイクの動的性能を損なわずトライアスロンバイクのように風を切っていけるバイクをなんとか作れないかな?それがあれば僕は大逃げかますよ、きっと。」

かくして、この発言をした彼は有言実行、ツールドフランスの大舞台で大きな逃げを行ったようです。(最後に捕まってしまったようですが…)

他社に先駆けて「エアロ」という新たなカテゴリーを一つ築くことができたのも、より空力的な性能が重視されるトライアスロンがブランドのルーツで、ノウハウ蓄積もあったためだと言えます。アメリカのサンディエゴ・低速風洞実験施設では利用企業の中でも特に多くの時間をかけることで有名なようです。

余談ですが、選手を乗せた状態での風洞実験も行うようで、ジム・フェルト曰くいままで最もエアロダイナミクスに優れていた選手はサラ・ハマー(女子ロード金メダリスト)、エアロダイナミクスに最も劣る選手はマルセル・キッテルとのことでした。単純な前面投影面積の違いな気もしますが…(笑)

 

FELT AR 第1世代

 

かくしてデビューしたFELT AR。初代のARは特にその当時販売していたトライアスロンバイク“B/DA”シリーズをいかにロードバイクに落とし込むかをベースに形づくられているように見えました。いかにも風を切って走りそうな翼断面形状と、特にホイール周りの空気を整流させるようタイヤに沿わせたダウンチューブ、シートチューブはこれらのモデルの特徴を色濃く残しています。ワイヤーケーブル類も極力内装し、この当時できる空気抵抗の削減に最大限取り組んだ形とも言えます。

一方、細かい所を見ればそのロードバイクとしての性能を損なわないよう、ボトムブラケットのボリューム化やシートステー部、ヘッドチューブの形状変化等、しっかりと剛性を出せる形状をとっていました。空気抵抗においては通常ロードモデルFシリーズとの比較で単独タイム比2%の短縮が可能(1時間のタイムでおよそ58~75秒)と、特にスピードを重視したいライダーにとっては最高の選択肢でした。

その当時乗っていた筆者初代AR。今務める会社を知るきっかけもARで、いろいろ思い出深いモデルです。

ただ、今の目で見てしまうと初代ということもあり、まだ完成されたモデルとも言えませんでした。風を切るための翼断面形状は反面、横剛性に対してやはり縦剛性がどうしても過剰となり、感覚としては「一枚の板に乗っている」というのが近しいイメージでした。またこの形状を作るにあたってその重さからどうしても登りでは足かせとなる面もありました。

 

FELT AR 第2世代

マットテクストリーム

初代ARが発表されてからおよそ6年の歳月を経て、2014年に発表された第2世代モデル。第一世代よりさらに高い空力性能と軽量性を目指し、開発・設計されました。今の基準に落とし込んでもまだまだ空力性能は高く、リムブレーキとはいえフレーム重量も908g(FRD)と軽量のバイクは今でもまだ理想とするユーザーも多いかもしれません。また、FELTがARにTexTremeカーボンファイバーを使うようになったのもこの世代からです。

各部のエアロ形状の最適化、快適性を向上させるためのシートステーブリッジの排除、BB下ブレーキ採用等、多くのアップデートを果たしました。また、最も大きな特徴はInternalocシートポストの採用でした。

シートポストのエアロ形状を最適化するためにはどうしても固定方式が大きな枷となりました。相当に大振りなシートポストクランプを取り付け、エアロと見た目を犠牲にするのも避けたい一方、他メーカーによくみられるボルト一本で締めるインテグレーションタイプの固定方式はことエアロなポストには負荷がかかりすぎることもわかっていたのです。結果として、ポスト内面をバインダーとなる内部パーツの内圧で固定するこのシートポストが生まれました。結果としてどれだけ太い翼断面のシートポストでも付けられるようになり、特許取得したこの固定方式は今でもFELT最新エアロバイクに採用されています。

日本国内に初めて入ってきた際の2世代目FELT AR。

重量も軽く、空力的にも優れる。何ならここ最近各社が出してきているモデルに近しいコンセプトのように思えますね。実際、走らせてみれば確かに速く走れる自転車であったかと思います。一回スピードを乗せてからの速度維持には勾配変化があっても特に優れるバイクでした。

反面、それでもまだ動的性能については同時期に販売していたFシリーズやFRシリーズと比較するとどうしてももったりした印象であったのも事実です。(ここについては住み分けの意味でも仕方ない部分もありますが)また翼断面形状を維持しつつ動的性能の底上げを図って横剛性を増した弊害なのか、乗り手の脚が消耗してパワーが捻出できなくなると、踏んでも全く進まなくなってしまう、ある種玄人以外お断りなスパルタ色が強い乗り味でした。

 

FELT 第3世代 AR FRD インプレッション

さて、いよいよ本題です。ここまでの前代モデルそれぞれを振り返った上で、いよいよインプレッションに入っていきたいと思います。

まずはインプレライダーとなる筆者の基本スペックを晒しておきたいと思います。

ライダースペック

身長:170㎝ / 体重 62㎏  乗っているバイク:FELT FR 1 (リムブレーキ)

そして今回乗ったバイクはこちら;

FELT AR FRD

 

そして、乗ってみた結論としては、以下の通りです。

「いろいろとずるい、チート級エアロロードバイク」

でした。

それでは何がそんなに「ずるい」と感じたのか、ポイントごとにご紹介していきます。

 

1.0スタートからの加速の良さ

バイクを借りた初日の帰り道。都内を抜ける信号の連続ですが、速くて笑っちゃいます。

会社事務所でバイクを受け取ってから都内を抜ける帰り道、ぱっと乗りですぐにわかるほどでした。「これ、速いバイクだ…」

都内はご存じの通り頻繁に信号で止められるのでストップ&ゴーの連続ですが、これが全く苦にならない0スタートの初速の速さ。決して普段乗っている自転車もかかりが悪い車種ではありませんが、それでも明確な違いを感じます。乗っている時に特に感じるのがBB周りの剛性感。とにかくペダルを踏み下ろした時にたわむ感覚が全くありません。本当の意味で自分の出力が駆動力に変換されている感覚を味わえます。そしてフレームの各所がちぐはぐにならずに一体で前方に進んでいく感覚。いわゆる「進むフレーム」を走らせた時特有の加速感なのですが、まさにそれを煮詰めたかのように思えます。

 

2.初速を乗せた後の巡航性能

これはもうこのバイクの真骨頂だと思います。特に下り基調や幹線道路の車のドラフティングの中で走ると如実に他の自転車よりも進みが良いのが分かります。

乗っているライダーのポジションやハブの回転性能等、他にも論じるべき点はあるかと思いますが、この部分については間違いなくARフレームの空力の良さが影響していると思われます。加速性能の良さですぐに初速を乗せた後、ペダルを緩めてもスピードが持続していきます。

第3世代のARは特に自転車における空力を再度研究しなおした結果、自転車に乗ってるときは特にヨー角が向かって正面に近い風を受ける割合が高いということが分かり、それに最適化したエアロ形状へ設計しています。弊社RPJには風洞実験室はさすがにないため実際に確かめてみることができないのが残念なところですが、感覚ベースで前2世代のモデルと比べてもよりスピードの持続力が増しているように思います。特に上記の1とも合わさって、初速の加速の速さから機材としての速度の最高到達点がうんと先にある感覚が味わえます。

 

3.意外にも(?)高い登坂性能

RPJ社員の定点観測地点、埼玉西部の小沢峠。たまにプロダクトを試したりしています。

意外というと失礼な話かもなのですが、この自転車、かなり登れるのです。フレームはエアロ形状でHEDの高ハイトカーボンリムを履き、ワイヤー類内装かつ剛性を高めたたっぷりボリュームのカーボンステムを付けた車体の車重は大体8㎏ほど。決して軽いバイクとは言えませんが、普段自分が乗る7.2㎏程のFELT FRと比べてこちらの方が登ると感じるほどでした。

何がそう感じさせているのか少々考えたのですが、やはり1.でご紹介しているかかりの良さが要因かと思っています。出力したパワーを余すところなくスピードに変えている駆動・伝達効率の良さが普段乗っているバイクとの800gの差を感じさせなかったのかもしれません。

また、昨今ではバイク1㎏の差ではある程度の上りでもわずか数ワットしか作用しないため、結果としてエアロを求めた方がトータル性能は速いという向きもあります。海外にはこのあたりの条件を求める計算サイトもあり、参考にしてみても面白いかもしれません。

Cycling power and speed

いずれにしてもこのバイクを使う条件が「平均勾配10%オーバー、ライバルはUCIイリーガル6.8㎏アンダーの超軽量バイク」などといった超限定的な走行条件でもない限り、登坂が不利になることもなければ、下り・平坦のアドバンテージの方が圧倒的に大きいと感じられるはずです。

 

4.安定して思い通りなハンドリング性能

ここについては個人の好き好きも多分にあるとは思うのですが、ARは下りのコーナーリングもかなり安定してこなせるようなフィーリングがありました。ハイエンドバイクにありがちなピーキーで気を使わなければ脱線してしまいそうな感じがなく、安定してバイクを曲げ、思った通りのライン取りをなぞっていけるように感じます。

この感じがどの部分から感じ取れる要素なのかは正直筆者のレベルでは判然としないのですが、このバイクの特性を考えると特に高速域での下り等、テクニカルな操作が必要な場面が想定されるためそのような味付けをしたのではないでしょうか。

 

まとめ

「いろいろずるいバイク」として、何を感じてそう断じたのか、4つのポイントにまとめて書き綴ってみました。

そして、先代、先々代から確実に今回の3代目が進化しているのがこれら4ポイントからわかること、お気づきでしょうか…!

先代FELT ARの項目でも書いた通り、エアロロードの進歩の過程は如何にして、

「ロードバイクとしての動的性能を損なわず、さらには向上」し、

なおかつ「自転車で生じる空気抵抗を削減することでエアロアドバンテージを付与する」

ことに集約されていました。そしてFELT AR第3世代については感じ取れる4つにまとめたアドバンテージからいわゆる完成形、エアロロードとしての終着点の一つに達しているように感じます。

インプレッションとして多少穿った見方も交えられればと思っていたのですが、この自転車についてはおよそ弱点らしい弱点も思いつきませんでした。輪行しづらいくらいでしょうか(笑)

完全無欠でいろいろとずるい、チート級エアロロードバイク

これを結論として今回のレビューを〆させて頂きたいと思います。

 

>> FELT AR プロダクトページ

 

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