Crankbrothersサポートライダー 朝倉佑太選手 カナダ遠征記 2025年夏

Crankbrothersがサポートする朝倉佑太選手より、2025年夏の遠征についてレポートが届きました。
朝倉選手自身の言葉で綴られたリアルな記録をぜひご覧ください。
以下、朝倉選手レポートです。

7月22日〜8月13日まで、カナダのウィスラーに遠征してきました。
世界で最も有名なマウンテンバイクパークと言っても過言ではないバイクパークを実際に走ってみて、感じたこと・驚いたこと・学んだことなどをまとめています。
カナダのマウンテンバイク事情や、カナダのバイクパークを走ってみたいと思っている方にとって、少しでも参考になる内容になれば幸いです。

準備編

【荷物】
海外で自転車を乗るにあたって直面する最初の難関が「荷物」です。海外に何回か自転車を持って行った自分が、今回ウィスラーに持って行った装備は以下のとおりです。

①段ボール(完成車が入ってくる箱を利用)
・バイク本体
→前後ホイール、ディスクローター、ハンドルを外して梱包、サスの空気を抜く
・スペアリアホイール(リア)
・フロアポンプ
ダウンヒルバイクは重いので、専用のキャリーケースに入れても無料で飛行機に載せられる23kgを超えてしまいます。オーバーチャージは必ず払うことになるので、少し不便ですが段ボールにスペアホイールなどの荷物を入れて32kgギリギリにするのが自分的にはベストだと思っています。今回は31.9kgでした。

②スーツケース
・バイクジャージ
・プロテクター
・シューズ
・普段着
・日用品
・工具(サスポンプ、六角レンチ、トルクスレンチ、タイヤレバー、ニップル回し)
・スペアパーツ(ブレーキパッド)
・ケミカル(チェーンオイル、サスオイル)
・インスタント食品

ウィスラーではおそらく全てのジャンルの食べ物を食べることができますが、どこも高いので基本的に自炊をしていました。
お米やラーメンなどを食べたくなることがあるので、5食分ほど持っていきました。

③ヘルメットバッグ
・ヘルメット
・ゴーグル(3個)

④リュックサック

渡航前の準備

・ETA(電子渡航認証)の申請
・現地SIMカードの購入
現地でも購入できますが僕は事前にAmazonで購入しました。
・シャトルバスの予約
バンクーバーからウィスラーに向かうバスが1日に4本ほど空港から出ています。
事前に予約しておくとスムーズにバスに乗れるので便利です。

宿泊先:クリークサイド

ウィスラーには大きく分けて3つのリゾートエリアがあります。
ゴンドラ乗り場があるのは、ウィスラービレッジとクリークサイドビレッジです。

①ウィスラービレッジ
ショップ・レストラン・宿泊施設・リフト乗り場などが集中している中心地。「ザ・ウィスラー」といえる、最も賑わっているエリア。

②アッパービレッジ
ウィスラービレッジのすぐ北側にある、落ち着いた雰囲気の高級住宅街。

③クリークサイドビレッジ
ウィスラービレッジから車で5〜10分ほど南に位置しています。商業施設は少ないですが、ウィスラーの中では比較的安価に滞在できるエリアです。

今回の滞在では、他の場所よりも安く長期間の滞在がしやすいクリークサイドビレッジに宿泊しました。ゴンドラ乗り場があり、ウィスラーでライディングに集中したい人にはおすすめです。

クリークサイドに泊まる場合、朝はクリークサイドゴンドラで山頂まで上り、ウィスラービレッジ側に下るコースでビレッジにアクセスするのがおすすめです。
日中はウィスラービレッジで過ごし、夕方になったら山頂からクリークサイド側に行くルートで降るか、道路を20分ほど自走して帰ることができて快適です。
ウィスラービレッジからクリークサイドに向かうバスも出ています。
ウィスラーのバスは自転車を収納するラゲッジスペースやキャリアを備えているので、僕のような旅行者にとって街を跨る移動手段としても快適です。

  • ウィスラーのバス

バイクパーク編

今回は3週間の滞在だったためシーズン券を購入しました。
1日券は1万円程度で、シーズン券は約10万円です。10日以上走る場合はシーズン券がお得です。

バイクパスは磁気カード型です。リフト乗り場の係員がリーダーで読み取ってくれます。
リフトに乗る際は、自分でリフトにバイクをセットします。
フロントホイールを持ちあげてハングするタイプと、バイクラックに乗せるものがあります。
不安なのは最初だけで、1回できるようになれば簡単です。

いよいよ自転車に乗ります。ウィスラーには130本以上のコースがあります。
まずはブルーのコース(中級)から乗り始めるのがいいと思います。最も簡単なグリーンのコース(初級)もありますが、これらは基本的に初心者向けで、他のコースの迂回路あるいはジープ道として設計されていることが多く、MTBに乗ったことがある人にとっては少し物足りないかもしれません。

一方、ブルーのコースは適度なスピード感でバームやテーブルトップのジャンプを楽しめるのでバイクパークに慣れるためにはぴったりです。

ブルーのコースも十分楽しいですが、慣れてきたら是非ブラックグレードのコースにも挑戦してみてください。ブラックのジャンプはサイズこそ大きいものの、テーブルトップ状になっていてチャレンジしやすいです。
またテクニカル系のコースも斜度が極端にきついわけではないので本格的なダウンヒルの雰囲気を楽しみたい人にはぴったりです。

さらに余裕がある人はダブルブラックやプロラインのコースにも挑戦してみてください。このレベルのコースは、ジャンプはキャニオンジャンプになり、斜めや横方向に飛ぶ技術が求められたりと、より高度なライディングスキルが必要になってきます。また、テクニカル系のコースではほぼ垂直に見えるような急斜面のセクションや、穴状に深く掘れた路面の連続といった、かなりハードな地形も登場します。初見ではどうやって走るのかわからない部分もたくさんあるので、上手なライダーが走っているのを横から見るだけでも面白いです。

おすすめのコース4選

①A-LINE(ブラック)

世界で一番有名なコース、”A-LINE”は、ブラックグレードのテーブルトップが続くジャンプラインです。
ジャンプのサイズは徐々に大きくなっていく設計になっていて、まっすぐ飛べる基本的な技術さえあれば楽しめるので、ステップアップにぴったりなコースです。
日本のコースでは感じることができない浮遊感を安全に体験できるのが魅力です。ただしウィスラーの中でも特に走り込まれているコースなので、ブレーキバンプ※やバンクの崩れがかなり目立つのも事実
SNSやプロライダーの動画をみるとスムーズな走りを期待してしまいますが、「リアルなA-LINE」の荒れ具合を体感できるのも面白さのひとつです。
※多くのライダーのブレーキングによって路面が洗濯板状になったもの

A-Lineで一番大きいテーブルトップ ”Moon Booter”

②DIRT MERCHANT(ダブルブラック)

僕が思う、ウィスラーで1番楽しいジャンプラインがこの”DIRT MERCHANT”です。
このコースのジャンプはキャニオンジャンプとテーブルトップジャンプが1:1くらいの割合で設置されています。
コースの幅が車3台分くらいあるので、まっすぐ飛ぶことも、さらに斜めに飛ぶことも可能です。

Aラインでまっすぐのジャンプに慣れてきたら、次のステップとして横方向の動きにチャレンジするのには最適なコースです。
後半はプロラインに切り替わって大きなドロップやステップアップもあるので、慣れてきたら無理せずにチャレンジしてみてください。
アクセスしやすいので上手い人の走りを見ながらチャレンジするのがおすすめです!

③LOAMONADE(ブラック)

ガルバンゾエリアというウィスラーの中でも上の方にあるこのコースはトレイルチックなテクニカルコースです。
ウィスラーのローカルライダーが大好きな「ローマー」という、ドライとウェットの間のしっとりとした路面を楽しめます。
短いコースですがカナダらしいトレイルの雰囲気を感じることができます。

④IN BETWEEN・IN DEEP(ダブルブラック)

このコースでは「スラブ」という大きな岩の表面を走るセクションを体験できます。
ダブルブラックのコースなので斜度はかなりきついですが、ブレーキをかけながらじわじわと急斜面の岩盤を下っていく、SNSでよく見る”ザ・カナダ”なマウンテンバイクの世界をリアルに味わえます。

 

ウィスラーを走ってみて感じたこと

【かなり難しい】

日本のコースと比べると、バンクにはしっかり傾斜がついており、ジャンプのサイズや角度も計算されているという点では、非常に走りやすいです。
ただし、コーナーには上手いライダーが思い切り当て込んだ痕跡があり、二段階に崩れている箇所もあります。また、フローなコースであっても、ブレーキバンプの影響で身体にかなりの衝撃がかかります。
他にも基本的に日本では走ることのないような急斜面のセクションや縦方向の衝撃があるため、最初は走るのがかなり怖かったです。

一方で、スピードを乗せやすい設計になっているのも特徴です。穴だらけのコースでも、慣れてスピードに乗せられるようになると、その穴をうまく回避しながらリズムよく走ることができます。
難易度が高く、さまざまな難しいセクションがありながら、それでもしっかり飛ばしていけるように設計されている点は、レースをしている自分にとって非常に練習のしがいがありました。
特に日本のコースとは異なり、縦方向に強いコンプレッションがかかるセクションが多いことが大きな違いで、そういった場所を走ること自体が、自分のスキルアップにつながっていると感じました。
そして、この「難しいけど飛ばせる」環境こそが、数多くのワールドカップレーサーを生み出している理由なのだと感じました。

【友達が増える】

ウィスラーではリフトやゴンドラは基本的に相乗り。
隣に乗り合わせた人と自然に会話が始まってそのまま一緒にライドしたり、さらにその友達とも一緒に走ることがたくさんあります。
自分から話しかけてもみんなフレンドリーに応えてくれるので、現地のライダーと気軽に繋がることができ、たくさんの人と一緒に乗ることができました。
みんな思いきり楽しみながらもライディングのレベルがとても高く、その中で一緒に楽しみながら技術を磨けるのが本当に良かったです。

マウンテンバイクをするのにぴったりな環境

ウィスラーのコースは、走っているうちに自然とライダーを成長させてくれるような設計になっています。
さらに、周りのライダーもチャレンジを応援してくれたり、コツを教えてくれたりと、とてもオープンでフレンドリー。
そんな環境の中で一緒に走っていると、自分でも気づかないうちにどんどん上達していくのを感じました。

驚いたのは、今でも中古のレンタルバイクが10万円ほどで購入できるということです。
自分は5年前に、初めてウィスラーに来て家族と山の中でレンタルバイクでサイクリングをしました。
そしてその時に街中で見かけたダウンヒルライダーとバイクに魅力を感じて中古のレンタルバイクを買ってもらったのが、ダウンヒルを始めたきっかけです。
そういった始めやすさも、ウィスラーの魅力の一つだと感じます。
また、ウィスラーでは毎日のように子ども向けのスクールが開かれていて、小さなうちから技術を学べる環境が整っています。
そうした環境の中で育った子どもたちが、将来のトップライダーへと成長していくのも納得できます。

番外編 フリーライドの街、カムループスに行ってきた!

カムループスは、ウィスラーから東へ車で約4時間の場所にある、ブリティッシュコロンビア州ではバンクーバーに次いで2番目に大きな街です。
ウィスラーのような湿潤で針葉樹に覆われた気候とは対照的に、カムループスはとにかくドライで、まるで砂漠のような景色が広がっています。

そしてこのカムループスは、ジャンプや砂の斜面を活かしたフリーライドの聖地としても有名です。

今回は昨年ウィスラーで知り合ったイタリア人の友人2人と、2泊3日でカムループスに行き、”Sun Peaks Bike Park”、”Kamloops Bike Ranch”、”Gravel Pits”を走ってきました。

Sun Peaks Bike Park

サンピークス・バイクパークはカムループスの街から車で約40分の場所にあるバイクパークです。
カムループスの街中が乾いた砂漠のような気候であるのに対し、ここはウィスラーと同じように湿潤で、森に囲まれたしっとりとした雰囲気が特徴です。
フリーライドの街にあるバイクパークでありながら、今年のダウンヒルのカナディアン・ナショナルチャンピオンシップが開催された場所でもあり、本気なダウンヒルも楽しめるバイクパークになっています。
コースの数はウィスラーと比べるとだいぶ少ないですが、どのコースも非常にクオリティが高く走り応えがあり、2日間では物足りなく感じました。

サンピークス・バイクパークの中で特に印象に残ったのが”Insanity One”というコースです。
このコースは今年のチャンピオンシップが行われたコースで、僕が今回のカナダトリップで走った中で一番楽しかったコースでもありました。
とにかく縦に落ちていくようなラインが特徴で、場所によってはかなりの急斜面もありますが、コーナーがしっかりしていて安心して攻めることができました。
そして同じような雰囲気のコースがこのバイクパークにはいくつもあります。フリーライドの街にあるバイクパークですが、充実したダウンヒル体験ができたのがよかったです。

Kamloops Bike Ranch

バイクランチはカムループスの街中にあるパブリックジャンプパークです。大・中・小さまざまなサイズのジャンプが設置されており、初心者から上級者まで段階的にステップアップできる構成になっています。
ジャンプのリップ(踏切)の角度はかなり立っていて、いかにもダートジャンプ向けに見えますが、ここではフルサスペンションのマウンテンバイクでもしっかり走ることができるのが大きな特徴です。
実際に自分もダウンヒルバイクで問題なく楽しむことができました。さらに驚いたのは、夜22時になってもライトが点灯しており、ナイトライドが可能なこと。

また、カムループス特有の乾いた砂漠のような地形もこのパークの魅力のひとつ。日本にはない独特なロケーションで、どこを切り取っても映える風景が広がっています。
パブリックとは思えないほど整備された、理想的なジャンプパークでした。

Gravel Pits

グラベルピットはかつての採石場跡地を降ることができるフリーライドスポットです。
20分ほどバイクを押し上げて頂上に行くと、まるでビーチのような広大な砂の斜面が広がっていて、その斜面を20秒ほどで一気に下ることができます。
最初は砂にタイヤが取られてしまって全く上手に走ることができませんが、何回かやるとコツを掴んできてターンを入れながら走ることができるようになります。
他の場所では感じることができない接地感スピード感がクセになります。

まとめ

今回、マウンテンバイクの本場であるカナダを訪れて、ただ走りを楽しむだけでなく、その根底にある“マウンテンバイクというカルチャー”そのものを体感できたことが、何よりも有意義な経験でした。
レーサーもフリーライダーもジャンルを超えてお互いをリスペクトし合い、そしてみんなが楽しみながらお互いに高め合っている姿がとても印象に残りました。
この旅を通して、「こういうマウンテンバイクの文化が実際に存在するんだ」ということを実感できたからこそ、今回こうして自分の体験をまとめようと思いました。
マウンテンバイクをやっているなら、ぜひ一度はこうした場所で実際に走って、現地のライダーと友達になって、この世界に触れてほしいと心から思います。
そして、もしこのレポートが、そんな一歩を踏み出すきっかけや後押しになれば嬉しいです。
最後になりますが、サポートをしてくださっている方々、いつも応援してくれる両親には感謝でいっぱいです。本当にありがとうございました。

朝倉佑太選手プロフィール

生年月日:2005年1月18日
出身地:東京都
instagram:yutaskra

中学3年生のときに家族でカナダを旅行し、ウィスラーで体験したサイクリングをきっかけにマウンテンバイクに興味を持つ。
現地で中古のダウンヒルバイクを購入し、日本に帰国後、本格的にマウンテンバイクに乗り始める。

【主な戦績】
2024 ENS  シリーズランキング2位
2025 ENS 富士見高原 1位
2023ダウンヒルシリーズ 富士見パノラマ エリート3位
2024 ダウンヒルシリーズ ニセコアンヌプリ エリート2位
2025 ダウンヒルシリーズ 白馬岩岳 エリート3位
2023 全日本自転車競技選手権 エリート9位
2024 全日本自転車競技選手権 エリート7位

【活動内容】
国内ではENSやダウンヒルシリーズなど、下り系のマウンテンバイクレースに出場。Crankworxやニュージーランドのナショナルチャンピオンシップなど、海外レースへの参加経験もある。
レース以外では日常的にライディングの映像を撮影し、SNS(主にInstagram)に投稿。スタイルや動きが伝わるような映像制作にも取り組んでいる。

Crankbrothersについて

1997年、南カリフォルニアで創業。独創性と機能美を追求した製品で、マウンテンバイク界に新風を吹き込みました。
初のヒット商品「Speed Lever」で注目を集め、2001年発表の泥詰まりに強い「Eggbeater」ペダルでさらなる高評価を獲得。
現在ではペダルをはじめ。ホイール、ドロッパーポスト、ツールなど幅広い製品を展開し、トップアスリートにも愛用されています。

日本版公式サイト
日本版公式Instagram