
BOMBTRACKの自転車で世界を旅するフランス人サイクリスト、クロテール。
彼は8年間ものあいだ、家を持たず、国境を越え、季節を越え、ただひたすら世界の景色の中を走ってきた。
今回、初めての日本で四国~大阪~名古屋~静岡~東京を約6週間かけて旅した彼に話を聞くと、そこには“旅人”という言葉では収まりきらない、圧倒的な自由と哲学があった。
お相手は、BOMBTRACKの販売台数日本一を誇る東京都杉並区のお店「Matthew Cycle(マシューサイクル)」の店主・金原さんです。
目次
大阪の夜がくれた特別な思い出

金原店長:東京までの長い旅、お疲れ様でした。初めての日本だったと聞いていますが、気に入った場所はありましたか?
クロ:大阪での夜は本当に特別でした。人々がとても素晴らしかったんです。私は日本語が話せないので、ときどきコミュニケーションに苦労しましたが、それでもビールや日本酒のおかげですぐに仲良くなることができました(笑)
それと、いたるところに食べ物屋があって、いろんな食べ物のにおいが煙っていて、さらにいろんなネオンの光が差していて…そんな賑やかな通りを多くの人々が行き交う光景をただただ眺めているのが好きでした。その記憶は目で見たものだけではなく、音や匂いなど五感で感じるもの全てで満たされています。わかるでしょう?すごく強烈な記憶なんです。
BOMBTRACKとの出会い
金原店長:ボムトラックに乗り始めたきっかけは何ですか?どうやって出会ったんですか?
クロ:ボムトラックとはニュージーランドの旅の途中で出会いました。以前、フランスからニュージーランドに自転車旅をしたことがあるのですが、ニュージーランドに着いてみると、もっと山の方に入っていきたい、幹線道路から外れて自然の中を走りたいという気持ちが芽生えてきたんです。ニュージーランドの豊かな大地は私にそう思わせるのに十分でした。当時乗っていた自転車がオフロード向きじゃなかったということもあり、そこで私の旅が少し行き詰ってしまったような感覚を覚えたんです。そこですぐに新しい自転車を探し始めたんです。それがきっかけでしたね。結局ネルソン近郊の店でボムトラックのビヨンドを購入しました。その日から私の旅の選択肢は一気に広がりました。ビヨンドなら道路にとらわれずにどこへでも行けますからね。

BOMBTRACKの哲学とは?
金原店長:うちの店では、街乗りとかオフロードとか冒険とか、どこを目指したいかに関わらず、しっかり進む速いバイクを求めているお客様にはボムトラックをオススメしています。当然モデルごとのキャラクターの違いはありますが、どのモデルにも共通して言えることは、よく進むということです。ジオメトリやパーツ選びなど、設計へのこだわりが積み重なってそういう結果になっていると思うのですが、僕はその絶対の信頼性みたいなものがボムトラックの哲学として強く感じるところですね。
クロ:私は自分が何を買うか、何を消費するか、そしてどんなブランドの服を着るかについて、とても意識するようにしています。何かを身につけたり使ったりする際は、その背後にある倫理観や政治的姿勢、哲学のようなものが感じられるものを選ぶように心がけているんです。そしてボムトラックについては最初からとてもその類の心地よさを感じていました。
それから数年前に初めてボムトラックにコンタクトを取ったとき、彼らはすぐに私の問い掛けに対して率直で明快な返事をくれました。そして彼らはとても親しみやすい人たちでした。まるで家族のような感覚です。ボムトラックに乗れば、ボムトラックの一員、家族の一員、コミュニティの一員になれるんだということを態度で教えてくれているような気がしました。他にもよく似ているいくつかの素晴らしいブランドがありますが、それらは大きすぎるんです。ボムトラックのような親密な繋がりを感じるには、存在が大きすぎます。
ボムトラックには彼らの独自の哲学があり、彼らのキーワードである「No attitude – just ride(考えるな、ただ走れ)」がそれをよく表していると思います。これは、乗り手が誰であろうと、どこから来た人であろうと関係ないということです。どこにいても、何をしていても、自転車に乗っていることそのものの喜びがあるだけだということを、我々に教えてくれています。
金原店長:以前、シクロクロスレースのために来日したゴッセさんも同じような話をされていましたね。彼らは「レースにたくさん出てくれ」とか「レースで勝ってくれ」ということは絶対に言わないんだと。とにかく彼の活動を一緒になって楽しんでくれるんだと。
クロ:そうですね。彼らはただ、自転車で楽しい時間を過ごしてほしいと願っているだけ、それだけなんです。

愛車:Beyond+ ADVについて
金原店長:クロテールさんのバイク「ビヨンドプラス」はとてもマッシブですね。やっぱり世界中を旅するようなライドスタイルにはこれがいいですよね。
クロ:そうですね、ビヨンドやビヨンドプラスが私の用途にはぴったりです。日本やモンゴルでオフロードを走ったり、中央アジアのキルギスやタジキスタンに行ったりするときは大きなタイヤが必要ですからね。それから乗り心地も重要です。とても気に入っています。でも、こっちのバイクも素晴らしいですよ(店内のHook EXTを指さしながら)。かなりいい感じだと思います。でも最高のバイクはなにかと言ったら、やっぱり自分のバイクですね。

金原店長:ちなみに重量はどのくらいですか?かなりの重装備ですが。
クロ:装備を含めて40kgぐらいだと思います。
金原店長:やっぱりとても重いですね・・!
クロ:このバイクが私の家みたいなものですからね!フランスには8年間も帰っていないんです。だから、ツーリングのための装備だけではなくて、ノートパソコン、ハードディスク、ドローン、キッチン用品、テント、服・・私のすべて、本当にすべてを積んでいるんです。なぜなら毎にち野外で寝泊まりしなければなりませんからね(笑) それでもこのバイクで走るのはとにかく快適です。路面が荒れていようが岩場や砂地であろうがそのまま走れますし、毎日7時間くらいは平気で乗っていられるくらい、本当に快適なんです。
ちなみに、日本の公園?野球場でしょうか、あそこは信じられないくらい快適ですね。しっかりとした水道があって、自由に使えるトイレもあって。朝、目が覚めると、私の周りには野球少年たちがいて、私のことをえらく奇妙な目で見ていましたが(笑)
日本について感じたこと
金原店長:世界各地を旅されていますが、今回、日本の旅を選んだのはなぜですか?
クロ:日本に来たかったからです。私だけではなく、ヨーロッパでは多くの人が日本に行きたがっていると思います。日本は様々な理由でとても有名なんです。人々、食べ物、お寺、桜・・日本が有名で人気な理由はいくらでもあります。私たちはみんな、いつか日本に行ってみたいと思うものなんです。ほら、例えば「自転車でカザフスタンを旅するんだ」って言うと、みんな「ふーん、カザフスタンね」っていう感じになるでしょう。でも「日本に行くんだ」と言えば、みんなが「おお、日本か。いいね!」ってなるんです。だから私もずっと日本に行ってみたいと思っていたんです。中国や台湾、韓国には行ったことがあったので、日本の文化も知ってみたかったんです。
金原店長:日本がそのように思われているのは嬉しいですね。実際に日本に来てみてどうですか?
クロ:それはもう、本当に素晴らしい国です。とても綺麗で、食べ物もおいしい、すべてが感動的です。特に、人々がみんな礼儀正しいです。人々が互いに敬意を払っていますね。誰も街中で怒鳴ったり喧嘩したりしないし、すごく場をわきまえてるんです。私のバイクを外に置いておいても大丈夫。フランスでそんなことをしたら、必ず誰かが触ります。そして2分もしないうちになくなってしまう。他人を信頼できるって本当に素晴らしいことで、とても貴重だと思います。
ただ日本に来て不思議なこともありました。道を渡りたいとき、赤信号で待たなくてはならないことです。日本の皆さんにとっては当たり前じゃんっていう感じだと思いますが、フランスだと、赤信号を待っている人がいたらみんな変に思いますね。「なんで待ってるの?さっさと行けばいいのに」っていう感じで。だから私も、日本に来た最初の数日間はもどかしかったです。「早く行きたい、早く行きたい」ってね。
そして日本の人々の親切さにもとても驚きました。私は明らかに日本人ではないし、タトゥーもびっしり入っているのですが、そんなことは全く問題にならず、人々は本当に、本当に親切で、いつも細心の注意を払い、常に気を配ってくれます。それと私が日本語を理解できないとわかると、みんないつも手助けしてくれたり、物事を教えてくれたりします。それは本当にありがたいことです。だから私は、ここが自分の故郷ではないなんて感じません。もちろん私は日本人ではありませんが、温かく迎えられているといつでも感じることができるんです。
よその国のことで申し訳ないんだけど、インドやバングラデシュ、パキスタン、アフガニスタンなんかに行くと、みんな、何百人もの人たちが「うわ」って感じでじろじろ見てくるんです。でも日本では、誰もが適度な距離を保ってくれるので、とても居心地がいいんです。

金原店長:そうなんですね。日本や日本人の良さって、我々自身はほとんど自覚していなくて、やっぱり海外の人たちに教えてもらっているという感じがします。日本人って、どういうところがダメだとか、自分たちの反省すべきところばかりを探してしまうんです。だからこその“今ここ”なのかもしれませんが。
クロ:そういえば、日本では自転車に乗っている人をたくさん見かけますね。自転車文化が根付いていることはとても良いことだと思います。でも、まだまだ少ないという気もします。なぜなら、日本にはもっと自転車で冒険するべき良いところが沢山あるからです。日本の人たちには、素敵な自転車を手に入れて、少しだけ冒険する勇気を持って、日本中をツーリングしてほしいです。この国は美しいし、その価値があります。ここは世界の中でも特に素晴らしい場所の一つなんです。自転車なら、道路だろうが、砂利道だろうが、獣道だろうが、行きたいところにはどこへでも行けます。自転車ってそういうところが最高なんです。
人生はもっとシンプルでいい
金原店長:クロテールさんのようなライフスタイルには誰もが一度は憧れるものだと思います。クロテールさんはいつ、なぜこのようなライフスタイルを選んだのですか?
クロ:私はこれまでの人生、ずっと旅をしてきたようなものですが、21歳までは人並みに勉学に励んでいました。その後病院の看護師になったのですが、全く働く気がありませんでした。働きたくなかったんです(笑) そして15年前、私はバックパックを背負って漠然と旅を始めました。そしてその旅の中で、ある時、ただ自由になりたいと思うようになったんです。好きな場所でキャンプできる自由。行きたい場所に行ける自由。それでヨーロッパ中を旅していたのですが、8年前のある日、「よし、アフリカに行こう」と思い立ちました。そしてヨーロッパとアフリカを行き来するような旅をしているうちに、ふと、「もう家には帰らない」と思ったんです。それから自転車で世界中を旅をするようになって、今日までずっと旅を続けています。
たぶん2年後にはフランスに戻ると思うので、そうすれば自転車での旅生活は10年になりますね。そこから先のことはわかりません。たぶん本を書きますかね。本を書いたり、ドキュメンタリーみたいな動画を作ったりしたいです。そうしてもう少しお金が貯まったら、また旅に出ると思います。

金原店長:自由を追い求めた結果としての、旅が主体となる人生、とってもいいですね。
クロ:私たちはどこへでも行けます。本当にクレイジーな時代を生きていると思います。例えば、私は母にいつでも電話できます。東京だろうと地球上のどこだろうと、母と話しができるんです。これは本当に信じられないことですが、あらゆることが便利になっているからこそ、いろいろなことに挑戦してみるべきだと思っています。これはあくまで私自身の考え方なんですが、私は、生活をシンプルにしていくことが好きなんです。自転車1台、テント1張り、寝袋1つ、料理用のコンロ1台、カレー粉、ごま油、ブロッコリー。それだけあれば十分です。本当に。なので、いつでも生活がシンプルで、いろいろなことに挑戦できる準備が整っているわけです。
金原店長:旅は、自由を追い求めた結果でもあり、人生を掛けた挑戦でもあるわけですね。
クロ:そうなんです。私は、人生はもっとシンプルであるべきだと思っています。でもここには一種のパラドックスがあって、複雑な人生を送るのは簡単だけど、シンプルな人生を手に入れるのは難しいんです。でもひとたび全てをシンプルにしてしまえば、その方がずっと自由になれます。例えば、「よし、明日はモンゴルに飛ぶぞ」って決めていても、もし飛行機に乗り遅れたら?そしたら日本に残るだけです。問題ありません。乗り遅れたら乗り遅れたで済む話です。だって、私を待っている人はいないし、私からの連絡を必要としている人もいない。その時間に私が職場にいることを期待している人もいません。
私の腕時計、スマホ、ノートパソコン、どれも表示されている時刻や日付はバラバラです。今日が何曜日なのかさえわかりませんが、そんなことどうでもいいんです。なぜ時間という概念が存在するのでしょうか?それは、毎朝「よし、まだ8時だから職場に着くまでコーヒーを一杯飲めるぞ」って言える必要があるからです。それから12時になったら仕事を中断して、食事に出かけて、1時間経ったらまた自分の席に戻る必要があるからなんです。でも私の場合は、お腹が空いたら食べるし、疲れたら寝るし、太陽が昇ったら目を覚ます。それだけのことなんです。シンプルでしょう?まるで自分の内面、つまり身体や脳が本来持っている時間の感覚により近いんじゃないかと思っています。

明日をどう生きるか選ぶ
金原店長:シンプルと自由というのはとても近い存在なんですね。人生のシンプル化のために時間さえ手放す・・日本人にはなかなかできないことかもしれません。でも、クロテールさんのお話には、我々にとってもなにか人生の幸福みたいなものを見つけるためのヒントがあるような気がしました。
クロ:だとしたら嬉しいです。ところで、あと1年しか生きられないとしたら、どうしますか?恐らくほとんどの人が「よし、もうどうでもいいや。仕事を辞めて、持っているものをぜんぶ売り払って、旅に出て、世界を冒険して、思いっきり楽しむぞ」って言うでしょう。でも、なぜ実際に世界を冒険するために、死が目前に迫るまで待たなければいけないのでしょう。明日ではダメなのでしょうか。
私たちはまだ若いです。若くて、元気。足も強いし、腕も強い。精神も強い。若い今の時間を活かして、働いて何か生み出しています。でも、そのエネルギーを本当にやりたいことに使ってみたらどうでしょうか。5分間座って目を閉じて、心の奥底で本当にやりたいこと、夢見ていることは何なのか考えてみてほしいんです。現実には、私たちは選ぶことができます。明日どうするかも選べる。毎朝起きて、シャワーを浴びて、朝食を食べて、仕事に行く。そうするのを自分で選んでいるんです。私たちはいつだって選べるということを知っているはずです。それなら、別の道を選んでみてはどうでしょうか。ある日、ただまっすぐに進み続ける代わりに、「もういいや。さよなら」と決心するのです。
多くの人がそうであるように、勉強して、キャリアを築いて、仕事をして・・それはそれでいい人生です。自分と周りが幸せなら、それでいいんです。でも、もし何か別のことを夢見ているなら、それを実行すべきです。絶対にね。誰も代わりにはやってくれませんから。それが私の哲学です。

記事:中野維人
写真:クロテール、中野維人

