FELT NEXAR インプレッション|ARから何が変わったのか。実際に乗って分かった”エアロレーサー”の進化

FELTにとって、「エアロレーサー」はブランドを象徴するヒーロープロダクトです。
2008年の初代ARの登場以来、その時代における最先端の空力性能を追求し続け、FELTのレースバイク開発を牽引してきました。

まだ各社が「エアロロード」というカテゴリーを確立する以前から、空力性能を徹底的に追求したカーボンロードバイクを実戦へ投入してきたFELT。その先進性に魅了されたサイクリストは少なくないでしょう。筆者もその一人です。

だからこそ、このカテゴリーはブランドにとって最も重要な存在でもあります。最新技術を惜しみなく投入する”顔”である一方、その完成度がブランド全体の評価を左右しかねない、決して妥協の許されないモデルでもあるのです。

その重責を担って登場したのが、ARの系譜を受け継ぐ新世代エアロレーサー「NEXAR」です。

 


AR3.0とは何だったのか

2020年にリリースされ、定番エアロロードの一つとして数えられるに至った第三世代AR。筆者は3年前、このバイクのFRDグレードをインプレッションし、「チート級エアロロード」と評しました。

インプレ当時の第3世代ARFRD。現在でも一線級のエアロ性能を誇る名機だ。

その理由は高い加速性能、圧倒的な巡行性、重量を感じさせない登坂性能、思い通りに反応する安定したハンドリングを持ち、およそ欠点らしい部分を感じられなかったこと。そして従来のエアロロードでは両立が難しいと考えられたそれらの動的性能を高いレベルでまとめ上げていたからです。当時、筆者はこのバイクをエアロロードの終着点の一つとまで書きました。

実際にその際の記事をご覧になりたい方は、以下のリンクカードからご確認いただけます。

事実、2025年のエアロロード市場にあっても発売から5年にもかかわらずAR第三世代機は高い空力性能を有していたことが確認されています。

出典:Cyclingnews(⾵洞実験データ)および CERO Design による 3.0 の推定値

しかし、新型NEXARを試乗をして感じたのは筆者の認識はまだ甘かったということ、そして、FELTは前モデルを終着点とは決して捉えていなかったという事実でした。

 


新世代エアロロードNEXAR インプレッション

いわゆるシクロワイヤード撮りをしてみた。試乗日の天気は真夏に差し掛かる前の曇り。入間市の茶畑にて

試乗当日は7月の上旬、とうとう夏本番に差し掛かるかという手前の最後の週末でした。

普段池袋に勤務しているライトウェイスタッフは首都から主に西側に住居を構えている者が多く、社内でのテストコースは東京都奥多摩エリアや埼玉南西エリアで試してみる機会が必然的に多いです。この日も走ったのは狭山の茶畑を超え、飯能から名栗方面へ山伏峠へ至るいつものコース。インプレッションは個人の感覚的な部分に頼るところが多いですが、普段から走っているコースではより揺らぎのない評価を皆様にお伝えできるかと思います。

インプレライダーとなる筆者の基本スペックを晒しておきたいと思います。

 

ライダースペック

身長:170㎝ / 体重 62㎏  乗っているバイク:FR 4.0 Advanced Ult Di2

試乗車 : FELT NEXAR FRD DURA-ACE Di2

FELTは前モデルを終着点とは決して捉えていなかった、と書きましたが、その事実は走り出して数分で理解することになります。最初に驚かされたのは、登りでも平地でもありませんでした。

 


第一印象 ― 最初に驚いたのは下りだった

まず何よりも最初に驚いたのは下りでした。決して普段自分が乗っている自転車が遅いなどということはあり得ませんが、このバイクに跨った際の下りのスピードは明らかにその一段上にありました。

当日はライトウェイスタッフとの2人での試走でしたが、前走するスタッフが普段と同じ感覚で下っているにもかかわらず、ペダルを回していないこちらの車体は自然と車間を詰めてしまいます。「あれ、近づきすぎる」と感じてブレーキを当てる場面が何度かありました。普段よりも放っておいても下りの重力に任せて加速していける感覚が非常に強く、空力性能をはじめとした車体全体の完成度の高さを最初に体感できた瞬間でした。

NEXARを眺めていてまず目につくのは、フロント周りの細さです。ヘッドチューブからコクピットまで徹底して断面を絞り込み、「風を受けない」ことを最優先に設計されているのが分かります。

自転車を速く進ませるにあたってやはり最も効果的なのが前面投影面積を絞ることで、エアロ的な優位が認められた前世代機にあってもヘッド、ステム周りはまだまだ改善の余地がありました。この部分を大きく作り変えてきていることが、実際の車体を前にするとよくわかります。

特にNEXARのハンドルステムは当モデルのコンセプトに合わせて設計されており、空力性能を引き出すための薄型、幅狭設計によりコクピットの抵抗が低減しているのが見て取れます。単にハンドルを細くしただけではありません。このコクピットは、ライダー自身の前面投影面積まで小さくすることを前提に設計されています。その設計思想は、実際に乗った瞬間から明確に感じられました。

 


ジオメトリーの本当の意味

筆者は身長170㎝、試乗車はサイズ540。埼玉県山伏峠上りでの乗車ポジション

今回のNEXARは従来のレースモデルのどれとも似つかないコンセプトで設計されています。特に注目されているのが、高スタック×短リーチという今までのレースバイクにはなかったジオメトリー。この組み合わせは従来であれば、エンデュランスロードで多く採用されてきた考え方です。

この特徴の表層をなぞって、単純に「楽なポジションで乗ることができるエアロロード」と評価するのは一面としては正しくとも、このバイクの実像の3割も正確につかめていないといえます。実際にNEXARへ跨ると、「楽なエアロロード」という表現ではまったく説明がつきません。むしろ感じるのは、「攻めるためのポジションが自然に作られる」という印象でした。

 

FELTはNEXARのリリースにあたって以下をこの特徴的なジオメトリーのコンセプトとして語っています。

  • BUILT FOR THE 99%(1%の一握りのレーサーのためだけのものではない、開かれたエアロアドバンテージの確立)
  • MODERN AERO(現代のレースシーンに最も求められるジオメトリー/フィットの確立)

高スタック×短リーチという特徴はより多くのライダーのためのジオメトリーになるのは想像に難くないですが、そもそもこのポジションが現代の高速レースにおけるもっとも速い設計になりうるともFELTは提示しています。

高スタックはレーシングポジションではないのか

従来のレースバイクのポジションはいかにライダーを伏したポジションで跨らせるかということが重視され、スタックとハンドル位置の低さが正義だとされてきました。ハンドルを下げるほど速いと、その設計は半ばレースバイクであることの条件ですらあるようでした。

ただ、近年高速化し、エアロポジションでの乗車時間が伸びているプロロードレースでは別の方向性のセッティングが見られるようになってきています。近年のトップレースでは、ショートクランクや前乗りポジション、ライズしたコックピットなどを組み合わせ、より空力的で持続可能なライディングポジションを追求する設計が主流になりつつあります。

空力的に優れているとされるポジションも下げ切ったハンドル位置で上体ごと腕を低く、というより高めのハンドルポジションに狭めのコクピットで肘を曲げ、肩幅を狭め、頭を落とすTTのようなポジションを取るほうが、前面投影面積が小さくなり、優れているケースが多いことがわかってきています。また、ある程度の上体の高さとポジションの近さを確保したほうがパワーを発揮しやすいとも言われています。

つまり重要なのはハンドルの高さではなく、ライダー全体がどれだけ持続可能なポジションでコンパクトにまとまるか。

NEXARはまさにこの考え方で設計されているように感じました。このコンセプトを理解したうえで自転車を走らせると立ち気味のシートアングル、ショートクランクといった現代ロードトレンドすべてが嚙み合って、自身が車体の心臓部としてビルトインされたかのような乗車感覚を味わえます。

高スタックによる乗りやすさはあくまで結果論であり、この設計はあくまで速さを追求するFELTの従来の姿勢から来るものであるとわかります。

 


コクピットの専用設計とは

NEXAR専用ハンドル。バーのアールが小さい。

専用設計されたハンドル一体型ステムも今回のNEXARにとっては大きなポイントですが、これも実際に握ってみて初めてその意味が見えてきます。

前項目で取り上げた通り、昨今のエアロポジションでのコクピットの近さをフレーム側ジオメトリーで実現するというのがこの設計の肝となっています。その分ヘッドチューブの長さを伸ばしているのですが、その一方で、コクピット側の積み上げ高さは極力抑えられています。

NEXARのヘッドスペーサーとステム自体は非常に低いスタックで設計されています。不要にコラムやスペーサーを積み重ねないことで、フロント周りの剛性確保にもつながります。(この点が、フレーム側でこのジオメトリーを作るメリットでもあります)

このハンドルのドロップ部分を握ると、下バーがフレアしており、またドロップ曲がりのアールが小さく作られていることに気づきます。このハンドルセッティングはフレームで巡行効率を高めたポジションを実現する一方、スプリントポジションでも妥協しないための設計だということがわかります。

フレアしたドロップは、スプリント時や高速コーナーで車体を安定して押さえ込みやすく、力を掛けやすいポジションを作ってくれます。そしてこのハンドルで特に印象的だったのは、ドロップ部の曲率です。一般的なドロップハンドルよりも小さいアールで設計されているため、下ハンドルへ持ち替えた際、自然と身体が前方へ伸びるポジションになります。

つまりブラケットでは現代的なエアロ巡航姿勢を取りながら、スプリントやアタックでは一段深い前傾姿勢へスムーズに移行できるのです。

つまりNEXARは、専用コクピットとの組み合わせによって、

  • 巡航時には高めのブラケットポジションで持続可能なエアロフォームを維持し、
  • スプリントでは下ハンドルへ持ち替えるだけで、より深く攻撃的なレーシングポジションへ移行できます。

一見相反する二つの要求を、一つのコクピットで両立させていることこそ、この専用設計の真価だと感じました。

 


一線級の動的性能

前世代機AR3.0がその動的性能において非常に優れていたという評価を過去の記事でしましたが、その感触は次世代のNEXARも色濃く受け継いでいます。ただ、筆者はNEXARのほうがよりレースライクな印象を受けました。

ハンドリング : 海外のファーストインプレッションでは、「ピーキー」と評される場面も見受けられました。実際、クイックなハンドリング感覚であるということは間違いないかと思います。しかし、決してナーバスなものではなく数分乗れば慣れるレベルです。前モデルのAR3.0や近年のバイクのハンドリング操作性が安定志向なものが多いゆえにそのような感じ方になるものと思われますが、このクイックさはむしろテクニックのある乗り手であれば武器になると思います。

加速性能:試乗したうえでかなり印象的だったポイントです。ダンシング、コーナー立ち上がり、アタック反応すべてで高次元の反応の速さを見せてくれます。従来の純エアロロードの常識を覆す、オールラウンド/クライミングレースバイクを食いに行っている反応性です。さらに前走者が踏み始めた瞬間、ほぼタイムラグ無しで後ろへ付いていける場面が多くありました。減速しにくい車体特性と高い加速性能が組み合わさることで、集団走行では非常に大きな武器になると感じます。

登坂性能: エアロロードといえばその重量、または低速での加速性から一般的には登坂には向いていないとされます。NEXARはこの点においても全くそのような印象はなく、むしろ速さが際立ちます。上にも書いた加速性能の良さと完成車重量6.8㎏を下回る車重の軽さ、元の空力性能の良さから特に緩斜面では他を寄せ付けないパフォーマンスを見せてくれます。唯一、やはり剛性の高さからか高トルクで踏み倒すよりは高ケイデンスで回すペダリングで進ませたほうが速いです。また、急勾配登坂への適正はFR4.0のほうが優れているポイントかもしれません。

特にこの加速性能や登坂性能は、単純な軽さだけでは説明できません。短いホイールベースやチェーンステー長、そして高い剛性バランスまで含めて、車体全体が”前へ進むこと”に最適化されている。その総合力こそがNEXAR最大の魅力だと感じました。

 


NEXARとは誰のための自転車か

3年前、私はAR3.0を「エアロロードの終着点の一つ」と評しました。その評価は今でも変わりません。しかしNEXARに乗って理解したことがあります。

AR3.0は、従来のエアロロードというカテゴリーの完成形でした。NEXARは、その完成形を磨き上げたモデルではありません。現代のロードレースをもう一度見つめ直し、その答えを一台のバイクとして形にした、新しいスタート地点なのだと感じています。

NEXARでFELTが追求したのは、空力性能だけでも、軽量化だけでもありません。

現代のレースシーンで最も速く、そして持続可能なライディングポジションとは何か。ライダーを含めたシステム全体をどう設計すれば、最も高いパフォーマンスを発揮できるのか。

その問いに対する答えが、高スタック×短リーチというジオメトリーであり、一体型コクピットであり、ショートクランクや立ち気味のシートアングルを含めた、NEXARという一台の設計思想です。その結果として、このバイクは100%レースバイクでありながら、従来よりも多くのライダーがその性能を引き出せる一台になりました。

BUILT FOR THE 99%

この言葉は、「レースバイクを万人向けにした」という意味ではありません。現代ロードレースの最適解を、一握りのトップライダーだけのものにしない。

その思想を形にしたことこそ、NEXAR最大の革新なのだと思います。

このバイクは最新ポジションへの理解が深いピュアレーサーから、自転車の楽しみをその「速さ」に見出しているエンスージアストまで、スピードを渇望してやまない全てのサイクリストへの最高の1台となるでしょう。

NEXAR 製品ページ

その他インプレ内使用商品

サイクルコンピューターマウント / BBB AEROMOUNT DUO (※取り付けに別途M4ボルト使用)

サイクルコンピューター / Garmin EDGE 840

リアライト / BBB SIGNAL BRAKE

ボトルケージ / SEIDO SWIFT BOTTLE CAGE

FELT Bicyclesについて

FELT Bicyclesは、革新、技術、スピードの追求に対する揺るぎないコミットメントで知られるパフォーマンスバイクのトップメーカーです。
確かな歴史とサイクリングへの情熱に裏付けられたFELT Bicyclesの企業活動は、ライディングエクスペリエンスを向上させる自転車を創出するために常にその限界を押し広げています。
ロード・グラベルをはじめとしたどのセグメントでも、FELT Bicyclesは世界中のサイクリストを鼓舞し、力づけるために設計された多様なハイパフォーマンスバイクを提供しています。

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