南魚沼ロード 中村龍太郎

枕もとで電話が鳴る。
相手の名前を見て、僕は寝坊したことを悟る。
時間は4時24分。ユキんちへの集合時間は4時だ。
昨日の銭形警部の言葉を「ルパンはとんでもないものを盗んでいきました。あなたの睡眠時間です」と言い換えるというしょうもないことを考えついた後、僕の頭の中の拙い脳みそが言い訳の候補をはじき出す。
「昨日遅くまで飲んでいたことにしよう」と電話に出て、いざ口を開くと謝罪の言葉しか出ない。
正直者には福がくることを切に願う。
5分で出発。ユキんちに到着は5時。急いで自転車を移し替える。
東京でケイトとアキさんを拾って、埼玉で佐野さんを拾って南魚沼へ。
ケイトの個人TTがあったので早め。試走をさせてあげたかったのでユキのレガシーが唸る。
無事に試走終了時間前に着くと監督に「どうした!?早くないか!?」と言われる。
早いんだけど寝坊している僕は苦笑い。
ユキは機会があったら寝坊したことを棚に上げてくる。その度に僕は「寝坊してもレースには遅れないから」と返す。(ユキは二度、レーススタートに間に合わなかった前科持ち)
午後のレースまではのんびり準備。
昼前に地元のおばちゃんが新米のオニギリを売りに来たので、買おうと声をかけると
「800円!」と言ってきた。えっ?二個で800円?どんだけ高級米なんだ、今年は不作なのか?と考えを巡らしながら
口では「800円は高くね!?」と漏らしている。
おばちゃんに再度確認すると「えっあたし、800円って言ってた!?ごめんごめん300円よ~」とな。
危ないところだった。800円払ってたらお米の一粒一粒を噛み締めて時間をかけて食べるところだった。

レースの方は土曜は短め。6周+2kmなので7回登る74km。
距離が短いから一回目の登りで一気にペースが上がる+勾配がきついから前に上がるのが大変+中切れとか恐怖でしかない=のでスタートから先頭にいる必要がある。
一番最初に集合場所に並ぶのはちょっと恥ずかしいので、ちょいちょい集合場所を確認して並び始めたらすぐに向かう。
スタートは三列目。パレード中に合間を縫って先頭まで出る。
登りにさしかかってリアルスタート。プジョルがアタック。先週の輪島もあるので集団は捕まえに行くだろうととりあえず集団内で登りをこなす。ペースが速い。
南魚沼はゴールから先がちょっと登るのでいやらしい。地味に足に来る。
平坦区間でアタックがかかるけど逃げができるまでは至らない。ホセ氏のアタックに反応すること数度。
集団は一つのまま二回目の登りへ。ここで鬼のようにペースが上がる。
プジョル、ホセ氏がアタックするのについていき、息絶え絶え。
登りきりで後ろを振り向くと、中切れが起きていて、それでも30人くらいはついてきている。
数珠つなぎになるのでとりあえず休もうと、ポジションを下げる。
トンネル区間に入って、ロイックが自分の後ろから勢いよくアタックしているのが見える。
それに何人か反応しているのが見えるが、自分が行くかどうか迷ってしまった。
さっきの登りの強度でもう一回登られると恐らく千切れる。
ここでアタックする勇気が出てこなくて、結局勝ち逃げに乗れず。
まんべんなく上位チームがいったことでコントロールするチームがいなくなり、1分から1分50秒、3分40秒と麓の監督のホワイトボードに書かれるのを見て、後悔する。
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PHOTO BY NORITSUGU ITO

アンカーが前に出て牽いていたけど、捕まえようとする意思はなく、こうなったら少しでもいい順位を目指すしかないと最後に賭ける。
最後の登りに入ったところでジョンがアタックしたのを利用してさらに先行。
もちろんそんなところからアタックしてももたないのだけど、なんか我慢できなかった。
後ろを振り返ると強烈に牽くUKYOの姿が見え、残り1km手前で回収される。
そこからは絞り出してゴール。20位とのことでポイントが大きくなるギリギリのライン。
自分が辛いということは皆辛いのであって、あえてそこでアタックできるかどうかが逃げに乗ることで重要になってくる。
反省して次の日へ。次の日はまた展開が違うはず。
駅前でぶらつき結局夕ご飯は居酒屋で。客単価を下げる我々は当然後回し。
かなり待って料理が出てきた。本気丼と書いてマジ丼。納豆が入っていたので隣のアキさんが嫌そうな顔するも、「ドンマイ」と容赦なく。

次の日のレースは120kmと長め。スタートは早めに行って最前列に並べた。
リアルスタートと共にプジョルがアタック。これに反応したのはukyoの外人とshimano木村とblitzen譲さんとmatrix安原。
エルドラの誰かとブラ―ゼンオッペイが遅れてアタックし、その後満を持してイナーメ佐野がアタック!
しかし後者の三人は先頭に追い付くことなく落ちてきた。それでも「自分がいかなくていい」と思えるのは気持ちが楽だ。
anchorが乗っていないので、集団コントロールするチームはある。ここは見。
二周目に入って早々にmatrixの安原が落ちてきたので、コントロールするチームが増えた。
matrixコントロールのままレースは進む。登りのペースは一定でそこまできつくないが、足にじわじわ疲労が溜まっていく感じ。
逆に平坦は速くて、気を抜くと車間を切ってしまう。
そこそこ速いペースで進んでいるのに、先頭との差が思った以上に縮まらない。先頭の逃げが早すぎる。
そのうちシマノの木村が落ちてくる。
MATRIXが先頭二人になった時に入部さんがシマノのチームメイトに調子を聞いて、何人かに指示を出して先頭に回らせる。
特に自分では何もできない僕は「頼むぜ!」と心で強く思う。
残り4回となった登りでロイックがアタックしたことにより集団が崩壊。自分も登りに先頭付近ではいっていたので何とか集団の尻尾は掴んだ。
先頭はANCHORのコントロールになり、残り3回の登りに入る。
ハイペースで牽く集団についていくことが出来ず、千切れる。
前を走る仕事を終えたシマノの秋田に声をかけて一緒に回す。
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PHOTO BY KOUJI OKAMOTO

さらに前にブリッツェンの怜が一人で走っていたのでトンネルで呼びかけて待たせる。
三人で残り二回となった登りに入る麓で中畑監督から「前19人」と言われる。
登りに入って怜が割ときついペースで走る。秋田が千切れて、自分も登り切りくらいで離される。
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PHOTO BY KANAKO TAKIZAWA

なんでペース上げるんだ、お手て繋いで仲良くゴールしようぜと思っていた僕はキレそうになる。
でもしばらく走っているうちに怜が20位が欲しいことに気付く。20位以上からポイントが上がるのからチームポイントが欲しいのか、と解釈。
平坦区間で粘ってトンネル区間で怜に合流。おそらく次の登りで果てるのは目に見えているので「20位欲しいの?」と聞く。
チームで走っているのは怜が三人目なのだそうで欲しいとのこと。正直僕はポイントどうでもいいので「やるわ、その代り麓まで連れてってね」と他力本願。
怜と二人で最後の登りへ。監督から「ブリッツェン抜けば20位!」と言われ、「いや、交渉は終わっているのですよ…」と思いつつ苦笑い。
登っていると前にシマノの湊が明らかに仕事を完遂してヘロヘロで走っているのが見える。
おっとこれ20位いけんじゃね?とやる気が沸いてくる。とはいえ体はついていかず、やっとこさ抜いたのは50m手前。
二日目のレースはずっと速くて、プロのレースの厳しさを久々に味わった。これぞプロツアー!と呼べる清々しいほどの負けっぷり。
まだまだ先は長いと思わせてくれるレースでした。
帰りは温泉部からのラーメンで日を跨がずに帰還。
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南魚沼から帰ってきて風邪をぶり返した。それほどまでに体を酷使したのだろうか。
週末のジャパンカップまでには治っていると思いたい。
今週末はジャパンカップからの白樺湖CXです。

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